2021.2.22
森氏の不適切発言に端を発した辞任劇と二転三転した後任人事の顛末が、連日ニュースとして報道されました。この一連の騒動において、私たちが着目したのは、事の是非や後任人事の適格性などではありません。今回は「ジェンダー」に対する認知的バイアスが取り上げられましたが、他にも社会の不公平や不平等を見過ごしてしまうマジョリティ性は、様々な事柄について回り、それが無意識の偏見を生んでいる可能性があります。
では、私たち一人ひとりは「森氏とは違う」と言い切れるのだろうか。そのような疑問から、ジェンダー観に限らず、マイノリティ観やレッテルなどの認知的バイアスとDiversity, Equity and Inclusion(以下、D,E&I)について、まずは自分自身を省みて、社員同士で話し合ってみることにしました。
ワークショップで重視したのは『対話を通じ、互いの認知の違いを知ること』です。拡散しがちなテーマであるため、多様性の3類型(Demography型/Task型/Cognitive型)*を枠組みとして示しながら、互いの考えを共有していきました。
ある社員は「自分のバイアスを分類すると、ある特定の型に寄っていた」との気づきを語り、別の社員は「セッションの途中でも、価値観の異なる他者にレッテルを貼りかけている自身に気づいた」と正直に共有しました。また、マネジメントメンバーの一人は「自分自身は周囲の人に受け容れられていると感じており、孤立やバイアスがあるという意識はあまりなかった。しかし今回の対話を通じて、皆が同じではないと改めて感じた」と話しました。
ある人は、セッション後に「マイノリティであることはネガティブなのか。なぜネガティブだと感じるのか。その点を深めることがバイアスを乗り越えるためのポイントではないか」と全社に向けて問題提起してくれました。今後も『私たちにとってのD,E&I』について、対話し続けていきたいと考えています。
対話を通じて互いを知り、互いの見ている世界を知る。知るだけではなく、その認知の違いを認識し、そこに生じている不公平や、誰かが感じているやりづらさについて、どうすれば軽減・解消できるのか共に考え、行動を起こす。D,E&Iを推進することは、そのプロセス自体が、個々人に内在する認知バイアスに気づき、考えを深め、自身と周囲の態度や行動の変容を促すものではないでしょうか。これは組織に対するリーダーシップの発揮であり、また自己変革のプロセスでもあると考えます。
私たちが提唱しているリーダーシップ開発論の出発点は、NOTICE(気づく)です。
変化や問題に気づく、機会や危機に気づく。そして自らに内在する様々な認知的バイアス(人間観・リーダー観・メンバー観・チーム観・ビジネス観など)に気づき、対話と内省を通じて学びを抽出し、行動を変えていく。そしてそのプロセスを通じて、自他の潜在能力を解き放っていく。
制度や仕組みの整備はもちろん大切ですが、それと同時に組織内の全ての階層や立場の人々のリーダーシップ開発こそが『その組織にとってのD,E&I』の推進には必要不可欠なのではないでしょうか。
*参考文献:Ishikawa, J. (2014). National diversity and team creativity: An integrative model and proposition for future research. Rikkyo Business Review, 7, 7–23.