Skip to main content
Change
Leadership

【Column】「費やした時間と労力の割に共有されない成功事例」を超える

website-images-WFA20
Published: October 28, 2024
Share this article:

2024.10.28

「この事例、全社に共有しよう。資料準備してもらえる?」

上司からこのような指示を受けたことがある方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。クライアントから高い評価をいただいた案件やこれまでのやり方を工夫したカイゼン活動など、成功事例を情報共有して全社に水平展開する。意図もわかるし、よいことだとも思うので一生懸命準備して発表するものの、「これ、役に立ってるのかな?」と感じてしまうこともあります。

私自身、以前勤めていた職場で事例発表者として何度か登壇した経験があります。発表準備にはそれなりの時間と労力がかかります。しかし、その労力に見合うような手応えを感じたことはありませんでした。聞き手である他部署の方々が、本当に発表内容を受け止めてくれたのか?ちゃんと応用してくれるのか?と、事例共有という仕組みそのものに疑問を抱くようになっていきました。

その後、インパクトジャパンに転職し、奇しくもCP内での事例共有の場を設計する役割を担当することになったのですが、何度かの実践を経て、今さらながら単に事例を発表するだけでは応用や展開には至らないことに気づきました。「周知」に留まることなく「共有」できるようにするために、場をデザインするという発想が必要だったのです。

周知と共有の違い

周知とは、「周りに知らせる」と書きます。広く人の間に知れ渡ることを指し、伝えた/聞いたという行為に焦点があたっています。念のため関係者をメールCCに入れるのと本質的には同じ。一方、共有とは、「共に有る」と書きます。この場合、情報の意味や価値を共に所有している状態になってはじめて共有されたと言えます。 

SECIモデルに置き換えると、この事例共有という仕組みは、個人の経験から得た暗黙知を言葉にして他者に伝える「表出化」にあたります。次に、それを聞いた人が自身の業務や環境に合わせてアレンジしたり、さらによりよい方法にしていく段階が「連結化」です。これまでやってきた事例「共有」は、実は表出化に留まっており、連結化にまでつながっていませんでした。これでは、いくらよい事例であったとしても、応用はされず、当然反復による「内面化」には至らず、他部署の中で暗黙知として伝授される「共同化」も起こりません。つまり、よかれと思ってやっていることが役に立たないという空しい事象が繰り返されてしまうということです。 

組織学習の4つのステップ 

さて、私の取り組みに話を戻します。QODP(Quality Of Discussion Paper)という事例共有の場のデザインにあたり、表出化から連結化へとスムーズに移行するために、組織学習論における4つのフェーズを手掛かりに再設計しました。  

  1. 知識の獲得:新しい知識や情報が組織に広がる 
  2. 知識の移転:その情報が組織内で共有され、他のメンバーにも伝わる 
  3. 情報の解釈:各メンバーがそれをどのように理解し、自分の業務に応用するか 
  4. 組織の記憶:最終的に、知識が組織全体の中で蓄積され、次の改善や成功に繋がる 

前述の通り、3番目の「情報の解釈」で組織学習が停滞しがちです。この解釈の壁を打破するために必要な主体性を引き出す仕組みや、明確なゴール設定の工夫を行いました。

発表者はクライアントと共に作成したDP(提案書)を使用します。発表の際、どのような特徴のDPなのか、このDPを共有する意図は何かを伝えます。このように発表者には端的にわかりやすく伝える「説明責任」を課しました。あえて特徴と意図に絞ることで、参加者に連結化してほしいポイントをクリアにし、記憶に残りやすいようにする工夫です。

それに対し、聴講者は「質問責任」を果たさなければなりません。ただ、情報を受け取るのではなく、積極的に関与することが求められます。あえて、ポイントを絞ることで、質問の余地を残します。この質疑によって、わかったつもりが回避され、「情報の解釈」が進みます。このため、発表よりも質疑に倍以上の時間を費やす場のデザインとなっています。

効果と今後の課題 

この工夫によって、自分の担当していない他社の事例のキモを掴むことができるようになり、結果として自分の担当クライアントへの有益な情報提供ができることが増えてきました。また、ラーニングデザインの方法論のコアな部分もCP間で共有されてきており、「あ、今回のクライアントの課題と似たようなケースを〇〇さんが共有してたな。ちょっと相談しよう」と関わり合うことも増えてきました。これは、Who Knows Whatが共有され、トランザクティブメモリー(組織の記憶)となりつつある証左です。結果として、組織としての提案のデザイン力が高まってきてます。

今後は、この取り組みの効果をさらに上げるための課題として、双方向性の改善を考えています。より本質部分の解釈に多くの時間が割けるよう、SDS法などの基本的なコミュニケーションフレームワークを徹底して用いることで、Interaction(やりとり)の頻度を高めていきます。

事例共有という仕組み自体は、機能すれば組織の力を高めてくれるものだと思います。ただし、その場のデザインや運営には、まだまだカイゼンの余地があるのではないでしょうか。事例共有に限らず、もし「報われない」「空しい」と感じるような瞬間があるとしたら、それは何かを変えるチャンスなのかもしれませんね。

参考文献:
安藤 史江(2019)「コア・テキスト 組織学習」新世社

Written by Baya, Business Consulting Department: Client Partner)

>>>Back to News Release Top 
>>>Back to Japan Top