2023.11.28
組織構造は戦略に従う。これは、アルフレッド・チャンドラーの指摘です。変化する環境に適応する戦略を策定し、その戦略を実行するために最適な組織にしていく。多くの経営層は、そのように考え、新戦略の打ち出しに際して、部署を再編するなどの手を打ちます。
そして、組織改編直後のタイミングのクライアントから寄せられることの多いご相談として「チームビルディング」があります。その目的の表現は様々ですが、例えば、相互理解、人となりを知る、交わり合いをつくる、というようなご相談です。しかし背景にある本質的なニーズは「新戦略・新方針に既存組織を適応させていく」という点にあると感じています。
この場合のチームビルディングとは、単に楽しい時間を過ごして仲良くなろう、という話ではないことは明らかです。実際、新戦略を進める上では、業務におけるプロセスやコミュニケーションラインなど、既存のやり方を根本的に変える必要も出てくるでしょう。つまり新戦略への適応のために、既存組織を調整して変えていく。しかしいわゆる組織慣性という力を考えても、これは容易ではないと想像がつきます。そのため「潤滑油」としての社会関係資本が重要性を増します。
改めて、社会関係資本とは何でしょうか。社会関係資本とは、つながり・互恵性・信頼の3つからなるとされます(*1)。この中でも特に「信頼」について考えてみます。山岸俊夫は、信頼は2つの期待によって成り立つと指摘しています。それは「相手の能力に対する期待」と「相手の意図(スタンス)に対する期待」です(*2)。クライアントからチームビルディングのご相談を受ける際、プログラムオーナーは、チームビルディングを通じて、その人の能力や意図をオープンに知ることから信頼の構築がはじまるとお考えなのだと思います。
では戦略転換時、信頼をはじめとした社会関係資本が重要になるのは、なぜでしょうか。
それは先にお伝えしたように、新戦略と既存組織の間には、業務プロセスがあるためです。業務プロセスを改善、変更していけるのは現場です。つまり、現場において旧部門や旧業務の枠組みを超える働きかけが起きなければ、新戦略も新組織も絵に描いた餅となりかねません。この際、ダニエル・ウェグナーの唱えた「トランザクティブ・メモリー(Who Knows What)」は、業務プロセスの新戦略への適応を推し進める一助となるでしょう。要は「誰に相談すれば、この話が進むか」を知っていること。これにより、現場で起きる日々の課題解決のため、ヘルプシーキングも起きやすくなります。特に新戦略や新方針を打ち出し、推進していく節目には、チームビルディングという名の場を、意図的にデザインして持つことによって、戦略への適応効率がよくなると考えられます。
例えば、あるクライアントでは、組織改編と新ヘッドの着任が重なったタイミングで、オフサイトでのチームビルディング研修を実施されました。聞けば、連日数々のミーティングは実施しており、お互い顔は見知っているし、会議での発言等を通じて、その専門領域や考え方も把握している。しかしそれだけでは、先に述べたような「信頼」、特に「相手の意図に対する期待」までは形成することが難しい、と部門長は感じておられました。
また別のクライアントでは、重要戦略の実行とその達成へ向けて、国内外の部門メンバーが集まるキックオフ時に、オフサイトでのチームビルディングの場を持たれました。弊社は、Project&Reviewという体験型アクティビティを用いたチーム活動に加え、Empathy Cultivating TalkやImpact Barを例とする、様々な対話を促す仕掛けを提供しています。これらの仕掛けを通じ、社会関係資本でいうところのつながりと互恵性の規範を感じ、また相手の人となりを知ることで、限られた時間でも信頼関係の強化を感じられるよう、デザインをしています。
プログラムに参加した社員同士が、短時間でも共有の体験とそれに伴う共通言語を持つ。すると、この共有体験と共通言語が、その組織の「潤滑油」となり、新部署同士がかみ合っていくきっかけになる。当日会場を訪れ、参加者の様子を見たプログラムオーナーの部門長は、今後の戦略推進にドライブがかかっていくことへの期待を聞かせてくださいました。
改めて、「新戦略の実行のため、チームビルディングが必要だ」とプログラムオーナーが言った時、本当に解決したい課題は何か。それは、「組織が戦略に従わない」「戦略が進まない」点にある可能性があります。そして、既存組織が新しい戦略に適応するため、組織の潤滑油となりうる社会関係資本を増やす必要性を感じられているのではないでしょうか。
組織にとって適切なタイミングで、潤滑油を注すことができるかどうかは戦略の推進度合いに大いに影響する。だからこそ、「新戦略の推進効率を上げる」視点を持ったチームビルディングが節目には求められているのではないでしょうか。
*1 ロバート・D・パットナム(河田潤一訳).「哲学する民主主義-伝統と改革の市民構造-」.NTT 出版株式会社.2001年
*2 山岸俊夫.「信頼の構造」.東京大学出版社.1998年
(Written by Barbara、Director of Brand Enhancement Department)
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