Skip to main content
Change
Management Development

【Column】掲げられた戦略が動き出さないのはなぜか

website-images-THI08
Published: March 17, 2025
Share this article:

2025.3.17

新しいビジョン、バリューや戦略。その共有のため、経営層や企画部署からの周知、タウンホールミーティングにおける共有など時間を設定する。よくある流れだと思います。一方で、時間はしっかりかけているのに、期待される変化がなかなか生まれない。経営層や、企画を行う発信者側と、受信者である社員側のギャップを埋める活動が思うようにすすまない。時間をかけた割に、思うように目線が合わない。こんなことはありませんか? 

考えてみると、発信者(経営・企画)と受信者(一般社員)の間には、抽象的なビジョンやバリュー、戦略を現場の具体に落とし込み、理解と行動変容を促すことができる推進者(マネージャー)がいます。一方で、この推進者であり、組織との連結ピンの役割を果たす「マネージャー達への仕込み」を、どの程度丁寧にできているか。この点は、案外見落としがちかもしれません。 

ここでいう「仕込み」とは、以下の2つの懸念をつぶしこむことです。1つ目は、そもそも経営・企画側の目線とマネージャーの目線が合っていないこと、2つ目は、マネージャー自身が、理解はしても納得はしていないなど認知的・感情的な対立の解消ができていないことです。このままでは、例えば、現場でマネージャーが、メンバーのバリュー不徹底な行動を見たとしても、気付かずスルーしたり、指摘しようにも納得していないので伝えようがない可能性があります。 

全社リリースする前に、マネージャーの間でのビジョンやバリュー、戦略に対する対話の質を高める。このことがその後の社員の行動変容の度合いに影響を及ぼす。この点を強く感じた経験、自社で行ったプリンシプルの策定プロセスを振り返ってみたいと思います。 

抽象概念に対する「前提の確認」と「批判的評価」がなぜ必要か

これまでのバリューを改め、新しい自社のプリンシプル(行動原則)を策定する。先期、このプロセスをリードしました。全社員によるアイデア出しを行った後、仮案作りと最終確定を全マネージャーで行う。その際、数多くあがった案の絞り込みや確定を行う意思決定プロセスにおいて、対話を通じた「前提の確認」と「批判的評価」の重要性を私は再認識しました。

まず「前提の確認」とは、基本的な条件や定義、目的を確認し合うプロセスのことです。各部署のマネージャーは、経験や背景が異なる。そのため、同じ表現を見て、同じ文言を使っていても、異なる解釈が知らず知らずのうち生じている可能性があります。そしてこの解釈の違いが、誤解やズレを生じさせる要因にも成り得ると考えました。そのため、お互いの視点をより深く理解し合い、目線を揃えるため、「そもそも、XXXとは?」という問いを用いて、前提の確認を行うようにしました。曖昧さを出来る限りなくすため、「そもそも」というフレーズは、かなり頻度高く、対話に発生しました。

次に、意識したのは、「批判的評価」です。批判的評価とは、マイサイド・バイアスという自分の念いや考えが正しいと思い込んでしまうという落とし穴に対して、意識的・客観的に吟味することを指します。対話において、相手の話す意味に耳を傾けることは大前提ですが、「それは違うのでは?」と投げかけることで、異なる角度から検討するきっかけづくりとなります。

実際のプロセスにおいて、この2点の重要性を痛感したのは、案の確定を行う段階でした。仮案作りで概ね形になっており、それほど時間を要さずに最終形を確定できるだろう、と私は見込んでいました。しかしながら、確定する段階になって、これまで合意していたマネージャー間で、各々少しずつ言葉に対する理解のニュアンスが異なっていることが発覚したのです。

「クオリティにとことん拘るの“とことん”って、どういう状態だろう?」
「そもそも、どういう行動になったら、“当事者意識を持っている”と言えるのか?」
「このケースで言う“誠実”と、あのケースで言う“誠実”とは、一緒なのか、違うのか?」 

普段、当たり前のように発している言葉の定義から確認し、具体の行動イメージを描き、互いの認識を揃えていく必要がありました。日常業務の中では、同じ理念を理解・共有できていると感じている、そんなマネージャー同士であっても、言葉のニュアンスや捉え方には、微妙な違いがある。この危機を解消したのは、結局「そもそも」という前提の確認と、「それは違うのでは?」という批判的評価を繰り返し、相違点を明確にし、曖昧さをとことん無くしていく地道な対話でした。 

当初予定の6倍の時間を要しながらも、無事マネージャー陣でのプリンシプル最終確定合意に辿りつきました。妥協を許さず、とことん対話する。ここに拘った結果、想定外に時間と労力を要しましたが、その効果は大きいと感じています。

マネージャーに対する丁寧な「仕込み」の効果

プリンシプルの全社発表後、その浸透活動が現在進んでいます。担当部署や各部門の推進担当者が進めることはもちろん、現場で指導するマネージャーの存在感も大きいものとなっています。特に1on1などの育成機会において、全マネージャーがプリンシプルに基づく同じ目線をもって関わり続けられている。これは、メンバーのアウトプット、つまり行動に大きな変化を与えています。

弊社では、Recogというツールを用いて、プリンシプルに基づく行動を行った仲間に対して、称賛のレターを送る仕組みがあります。このレターを見ていると、マネージャーも社員ひとり一人も、プリンシプルを軸にして、振り返りや内省を行う行動が、比較的短期間で癖づいてきました。ビジョンやバリュー、戦略は、リリース時のイベントも節目づくりとして大切ですが、日常におけるしつこいリマインドによる行動変容のサポートができるのは、やはり現場にいるマネージャーなのだと実感しています。

改めて、全社員への説明や対話にかける時間「量」だけではなく、マネージャー間での対話、すなわち推進者における「質」の担保に、馬力をかける。そのことが「時間はかけているのに、期待される変化がなかなか生まれない」という事態を防ぐと考えます。

そして、「質」が見落とされがちな要因として、一見理解しているように見えるマネージャーの中にも、実は認知的、感情的対立がありえることを踏まえ、敢えて、前提の確認と批判的評価の場を持つ。推進するマネージャー間の対話による質の担保に、いつもよりパワーをかけてみることも一つの糸口となるかもしれません。

今回の事例は、マネージャーを推進者としたケースですが、抽象度を上げてみると、国内と海外、人事部門と事業部門など、様々な人と組織をつなぐハブとなる役割の方への支援の観点として、参考にしていただけるのではないかと感じております。

参考文献:

  • マイケル・A・ロベルト(2006)『決断の本質』、英治出版
  • 日本能率協会マネジメントセンター(2015)『異質な力を引き出す対立のススメ--身近な事例で学ぶコンフリクト・マネジメント入門』JMAM
  • 中原 淳(2022)『話し合いの作法』PHPビジネス新書

(Written by BarbaraDirector of Brand Enhancement Department)

>>>Back to News Release Top 
>>>Back to Japan Top