2025.4.15
インパクトジャパンのインターンシップ「BACKSTAGE(バックステージ)」。
「BACKSTAGE」とは、あしなが奨学生である大学2年生以上を対象としたプログラムです。弊社が取り組む、1)若者支援団体への寄付、2)団体から支援を受ける若者への研修のプロボノ提供という、「リーダーシップ・エコシステム®」の一環として取り組んでいます。若者が社会人としてのスタートをスムーズに切れるよう、「活躍しているビジネスパーソンのやりがいやジレンマを舞台袖から観ることで、社会人の先取り学習をする」ことをねらいとしています。
本コラムは、2024年度BACKSTAGE参加者の金井優佳さんがその気づきと学びを綴ったものです。
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大学2年生の冬、インターンシップBACKSTAGEにて、リーダーシップ・オープンプログラムをオブザーブする機会を頂きました。ここで出会ったのは、すでにリーダーとして歩まれている「社会人」の方々です。様々な業種の方々が、チームとなって、リーダーシップ要素の詰まった疑似プロジェクトに取り組む姿。またそれを経て、繰り返される対話と内省の時間に参加させていただきました。そこで考えてみたいと思ったテーマは、「ポジティブな言葉がけは常に良い影響を与えるのか?」というものです。
チームで活動をする際に仲間の士気を高めるため、ポジティブな言葉が使われることは多いと思います。「大丈夫だよ」「まだやれる」「何とかなるよ」「君ならできる」といった励ましの言葉は、前向きなエネルギーであるモメンタム(勢い)を生むように思えます。しかし、時にはポジティブな言葉がチームに対して逆効果になって問題解決を遅らせてしまったり、現実・現状から目を逸らしてしまう、“負のモメンタム”を生み出す要因となってしまいます。このコラムでは、ポジティブな言葉の落とし穴、逆にネガティブな言葉がチーム活動を前進させる、オブザーブで見つけたそんな瞬間と、そこから見た社会人のやりがいについて考えます。
ポジティブな言葉がけの落とし穴
まず、ポジティブな言葉の効果を改めて考えてみます。ポジティブな言葉は、場を和ませるなどチームの雰囲気を良くし、メンバーのやる気を引き出すことが期待できます。一方で、何かしらの課題に直面した時も、そのままポジティブな言葉をかけ続けている、それがチーム内で飛び交っていると、かえって課題解決が後回しになってしまう場面をオブザーブ中に見ました。
プログラムの参加者の皆さんは、あるプロジェクトに取り組んでいました。そのプロジェクトは、複雑な構造の完成見本をもとに、構造物を完成させ、またその再現タイムを他チームと競うものでした。3チームに分かれ、試行錯誤を重ね、最短タイムで構造物を完成させるチャレンジ。あるチームは、最初に課題を完成させました。しかし、タイム短縮のための改善フェーズでは、活動が停滞してしまったように見えました。その際、チーム内で多く聞かれた声掛けは、このようなものでした。
「大丈夫、いける!」「とりあえずやってみよう」
実はタイムを縮めるためには、工程の見直しと変更が必要だったのですが、課題を直視するタイミングを逸してしまった、と振り返りでメンバーは話していました。そしてファシリテーターからは、「ポジティブであることは、ただのモメンタム(勢いによる慣性)だった可能性も。継続すべき内容だったのか」という問いかけがありました。チームは、プロジェクトに熱中するあまり、現状を冷静に分析する機会を逃してしまったのです。このように、ポジティブな言葉がけが過度に使われてしまうと、問題意識や現状理解に対する意識が薄れ、適切な対応が遅れてしまう。この場面は、まさに私自身のある経験を思い起こさせるものでした。
「なんとかなるよ」が通用しなかった私の経験
昨年、大学の学園祭の実行委員会で、委員長を担当しました。複数の企画を進める必要がありましたが、準備がなかなか進みません。メンバーのモチベーションも下がっている。そう感じた私は「なんとかなるよ!」を多用して励ましていました。一方、状況は全く変わりませんでした。
そんな時、ある先輩から「このままだと当日グダグダになると思うけど、大丈夫?」と核心を突くようなことを言われました。そこから漠然とした声かけではなく、「何が問題だろう?」「どう改善したらいいだろう?」と各企画担当者に話しかけるようにしました。そうして密に話し合い、準備を進めた結果、なんとか当日、無事に学園祭を終えることができました。そして、メンバーからも「あのタイミングで違和感に気付けて良かった」「あの時、指摘してくれてありがとう」と言われたのです。
厳しい言葉がけがチームを前進させる場面
この経験から、ただの「大丈夫」よりも、時には厳しい現実を指摘することが課題を乗り越えることに繋がるのかもしれない、と漠然とは感じていました。でも、ネガティブな指摘をすることは、そう簡単なことではないとも感じていました。
そして、今回のオブザーブの後半、同じようにチームに対する厳しい声かけが、チームの成果に大きく貢献するシーンを見ました。ある参加者の方は、当初よりややネガティブな発言が多いように見受けられました。「これじゃうまくいかないと思う」「このままではあのタイムは目指せない」といったようなやや否定的な語尾が多い印象です。しかし、その方の発言によって、他メンバーから「では、この方法だったらどうだろう?」というアイディアが引き出されました。そして、その後に生まれた試行錯誤が、成果につながったのです。
そのシーンを見た時に、先輩の一言を思い出しました。それと同時に私の中に、ネガティブな言葉をタブー視する思い込みがあったと改めて感じました。もしかしたら、最初にポジティブな発言を多くしていた参加者の方もそうだったのかもしれません。でも、一見ネガティブに聞こえたり厳しく聞こえる発言が、チームの目指す目的や目標に対して、具体的な解決策や改善策を見出すことに繋がる、と改めて実感しました。
発言の背景にある思い
プログラムから1か月後。この参加者の方にインタビューをする機会を得ました。彼女にチームへの言葉がけの背景にある考えを伺ったところ、こう話してくださいました。
「私が考える成長は、らせん階段のようなもの。上から見れば、同じところをぐるぐる回っているように見えても、横から見れば確実に上へと進んでいる。だから、失敗は誰にでもあるし、同じ失敗でなければそれでいい。ミスをしたらまた次の手を考え、選択肢を増やしていけばいいと思っている。」
だからこそ、彼女はポジティブな言葉で無理に鼓舞するのではなく、「今のままでは成功する見込みはないが、どうすれば改善できるのか?」と率直に問いかけ、選択肢を増やしていくことが、チームの前進につながる、と考えているそうです。そうやって仲間と次のステップに進んでいく、徐々に確実に進んでいくプロセスを楽しんでいるように見えました。仲間への声かけで、チームの成長の仕方が変わる。成果も変わる。それはとてもやりがいがあることのように見えました。
今回のオブザーブを経て、私が見つけた仲間への声かけのポイント。それは、チームに前向きな危機感をもたらす目的での言葉がけです。目の前のタスクに没頭してしまい、俯瞰的に状況を見られない。それは誰にでも起きることだと感じます。その時に、「このままでいいのか」「どうすれば改善できる?」と問いかける。それは、チームに冷静さをもたらし、前向きに「どうしよう」と一時停止して考えるきっかけになります。その一時停止が、現状の打破や成功に向かう一筋の光となる。そんな意識を持って、効果的な言葉を使っていきたい。ここから約2年間のあしなが学生募金事務局の活動においても、そうやって仲間との活動に取り組んでいきたいと今、気持ちを新たにしています。
参考文献:
野田智義、金井壽宏 (2006)「リーダーシップの旅 見えないものを見る」光文社新書
(Written by 金井優佳、BACKSTAGE3期生)