Skip to main content
Leadership
Teams

【Column】「未来の正解」を作ろうとする中でぶつかる不安との向き合い方

website-images-WFA32
Published: February 26, 2025
Share this article:

2025.2.26

「新しい施策の企画を出して」「社内イベントの企画を出して」こんなオーダーを上司から受けた時、まずは何から始めますか?大きな構想であればあるほど、あれもつながる、これも入れたほうがいい企画になりそう、とよさそうなことは思い浮かぶ。思い浮かぶものの、個別のアイディアだけでは、企画の軸が定まらない。この段階で、上司や同僚に相談しても、発散的になることは避けられません。 

あるいは、企画とは、企画者がすべて一人で考えて論理の筋を通すものだ、という考えの方もいるかもしれません。しかし、そうして考えた内容が、上司の目指したいゴール状態を満たしていなければ、差し戻しを繰り返し、工数だけが増える。そうして「一体どこから手を付ければよいのか」と立ち止まり、上司に「あれ、どうなった?」と聞かれるまで、あるいは時間的余地が完全になくなるタイミングまで、案件を塩漬けしてしまう。時に自分がその状態にはまっていると気づきます。 

思えば、企画している時間自体は、価値を生み出していません。企画が実行に移り、人を巻き込み、動かすことで、本来の企画目的へと初めて近づくことができます。一方で、先述のように、新しい企画やこれまでと違ったゴール状態を目指すようなものであればあるほど、企画者はつかみどころのない漠とした不安、つまり茫漠感を抱きやすいとも感じます。 

そんな時、ヒントとなるのは、ひとりで考えることと、チームの力を使って企画を磨き、完成させて実行に移していくこと。この使い分けだと考えます。企画における茫漠感を超えるためにチームの力を借りる。そのポイントとなる点について、このコラムでは考えたいと思います。

企画の「解像度」を上げるとは 

そもそも「企画」とはなんでしょうか。これを「未来に対する企て」と考えてみましょう。すると、軸として必要なのは「なんのために、なにをする」つまりWHYとWHATであるといえます。これと比較して計画は「どうするか」つまりHOWを描くことです。

未来を描く際には、立脚する現状を正確に捉え、また目指すべき将来のゴール状態がクリアに描けていることが重要です。リアルを捉えていない企画が成功するとは思えませんし、目指す先がぼんやりした企画も、そもそも成功・失敗を判断することすらできません。では未来に対する企てを行う際の茫漠感に対するヒントは何か。ここでここ数年耳にすることが増えた、「解像度」という言葉について、考えてみたいと思います。 

書籍『解像度を上げる』において、著者は、以下を指摘しています。 

  • 解像度には、深さ×広さ×構造×時間という4つの視点がある 
  • 多くの課題と解決策がぼんやりしている原因は、特に「深さ」の解像度が低いことがほとんどである 
  • 「深さ」を高めるために必要なのは、内化と外化を繰り返していくこと
    (インプットとアウトプットとも言い換えられるが、著者は、より「認知プロセスの変化」を強調するため、内化と外化という言葉を使用しているとのこと。本コラムも上記に準じます) 

今年度、立案者として企画を進める経験を持ちました。その際にたどったプロセスも、この内化と外化をチームで繰り返すことで、企画の「深さ」を高め、解像度を上げていくプロセスだったと感じています。少し具体的にお伝えさせてください。 

チームで、企画の解像度を上げることに挑む 

この上期、マーケティング戦略の立案をリードする経験を得ました。この企画は、数年前から概要イメージはあれど、具体的な企画に落とし込むまでは至らずにいたものでした。今回、ついに具体化していくにあたり、企画自体のデザインとチームを巻き込むプロセスのデザインを行いました。まずは、上司の助言を受けながら、このマーケティング施策が有効と考えるメカニズムを紐解き、図式化しました。このプロセスは、主に上司と企画者である私の2名で、壁打ちをして進めました。

そして、ある程度それらしくなった図案のたたき台をチームに共有しました。考えたメカニズムについて説明し、メンバーからは、違和感の有無について、フィードバックをもらいました。チームメンバーは5名。クライアント接点歴の長い社員や、実際に過去クライアント側だった社員もおり、それぞれからのコメントは図案の精度を上げることに非常に役立ちました。そこから企画者である私が、再度企画の骨子を修正し、それをチームで揉むプロセスを複数回重ねました。

考えてみると、このプロセスは、デザインという抽象と、具体のリアルや要件との行き来をする経験でした。抽象で考えると、ある程度確からしく見えるモデル図について「例えば、このクライアントの場合は、どう当てはまるのかな?」と問われたり、論理的にはよさそうな運用施策について「今のメンバーで、これってどのくらい実現可能なのかな?」等投げかけられたり。こうした違和感について、メンバーに言語化してもらうことで、今のモデル図で答えられる、ここは今回含まれない等、企画の外枠も明らかになり、モデル図の強度も上がっていきました。最終的には、目指すマーケティング施策を動かすため、超えるべき2つの壁を特定し、その超え方を提言するところまで、チームでたどり着くことができました。 

チームで企画をもむ際、リード役が意識するポイント3点 

今回の経験から、企画のリード役が果たす役割には3点のポイントがあると感じました。1点目は、議論のたたき台を用意することです。企画の骨子は論理を通す必要があり、それ自体は大人数で行うよりも、個人あるいは少人数で行うほうが適しています。船頭多くして船山に登る危険があるからこそ、まず最低限、論の通ったたたき台を用意し、課題の焦点を絞ることは最初の第一歩です。

2点目は、チームミーティングを「内化と外化を行き来する場」として活用することです。チームに企画を見せる段階では、必ずしも完璧な状態である必要はないと考えています。しかし、自身の現状の考察を図なり、言葉にして他者に伝わる状態にはしておく必要はあります。それが伝われば、メンバーから納得あるいは違和感や反例といった現状企画の持つ「深さ」に対するフィードバックがもらえます。ここでの違和感をなくし、確からしさを積み上げていくことが、企画の解像度を上げ、全体の納得感につながると感じました。また、たたき台を見せた後のチームへの投げかけは「何か意見ください」ではなく、「どこにどう納得感、あるいは違和感がありますか」と聞き、改善のための焦点を絞っていくことが場の使い方としては重要だと感じています。

そして3点目は、チームから出てくるスコープ外となるトピックスをさばくことです。企画にはスコープがあり、すべてを包括することはできません。できたらよいが、今回はスコープ外、という点を冷静に判断し、それらのコメントがチームから来たとしても、受け止めはするが振り回されすぎない。これもリード役が果たすべき役割だと感じました。

ミーティングのデッドライン効果も使って、茫漠感を超える 

また今回、チームミーティング設定によるデッドライン効果も感じました。長期的な企画であればあるほど、茫漠感も大きく、手をこまねいている間に、直近のタスクに企画立案は押し出されがちになります。しかし複数名の予定を押さえたチームミーティングの設定をすれば、「なんらか形にしておかないと議論にならない」とステップを進める効果がありました。

言うまでもないことですが、ミーティング招集時には、目的、ゴール状態、アジェンダをインバイトに明記する必要があります。アジェンダが不明確なミーティングは、論点も不明確で大抵不発に終わります。私自身、焦って場当たり的にミーティングを招集し、準備が的を外しているとの指摘を受け、開始10分でミーティングを終了した経験もあります。失敗しながらも、徐々に改善に努めている最中です。

改めて、新たな企画に立ち向かう際に、企画者が感じる漠然としたつかみどころのない感覚や不安。それを超えるために、チームというコレクティブの力の活用と、コラボレーション・オーバーロードを防ぐために企画者が「手綱」を握ること、このふたつが有効だと考えます。企画段階において、このふたつを使い分け、抽象と具体を行き来した企画こそが、解像度が高く、目指すゴールに近づくことに寄与するものとなりうるのではないでしょうか。今回の経験からの気づきが、変化を企てる方のお役に少しでも立てば幸いです。
 

参考文献: 

  • 井徳正吾(2009)『「企画書」の基本&書き方がイチから身につく本』、すばる舎 
  • 馬田隆明(2022)『解像度を上げる――曖昧な思考を明晰にする「深さ・広さ・構造・時間」の4視点と行動法』、英治出版