2022.12.16
「今度入社してくる新入社員/転職者の育成担当お願いね」
このような場面、社歴が1年を超えると増えてくるものです。
そして、育成担当をお願いされた後、特になんのフォローもないということもよくあります。育成するにもポイントもわからず臨むのは大変なものです。
では育成上のポイントとは何でしょうか?
芸術や芸道の世界では守破離という修行の過程を表す言葉がありますが、こちらは社会人への育成の際にも当てはめることができます。では守破離の中では何が一番大切だと思われますか?私は守が一番大切だと思います。
しかし育成側の悩みが多いのも守の段階です。「教えているけれど、思ったような後輩の反応が返ってこない・・」「実はしっかり育成ができているか不安」とよく耳にします。
また、育成される側、学習者も「はやく基礎をマスターして一人前になりたい、自分なりの提案をしたい」と気持ちが急いてしまいがちです。前向きではあるものの守を軽んじているというにも捉えられるような声も聞かれるものです。
そもそも、なぜ守破離の中で、守が一番大切なのでしょうか?
社会心理学者のエドウィン・ホランダー(Edwin P. Hollander)が提唱した信頼蓄積理論(Credit Accumulation Theory)によると、新しい集団に入ったときにはまず周囲から信頼を獲得することが有効であり、信頼を獲得・蓄積するには以下の2点が必要と述べられています。
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同調性:すでに形成されている集団の規範に対して、忠実であることを示す
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有能性:集団に貢献できる仕事をする
これはまさに守破離の守にあたります。
またホランダーは特異性-信頼理論で、ある個人が信頼を蓄積した後に、ようやく集団は特異性の発揮、つまりリーダーシップの発揮や新たな取り組みの推進を期待すると提唱しています。これは守破離の破離ですね。
つまり、そもそも守がしっかりとできていなかったら、信頼を勝ち得ていないということなので、破離をやっても効果が低いということです。だからこそ守が一番重要となります。
次に、守を3つの要素に分解して、紐解いていきたいと思います。これは当社がOJTトレーナー向けにお伝えしている、型である守を効率的に教えるための概念(Maturity Spiral)です。
1)期待される基準を明確にする
育成者はまず「期待される基準を明確に伝える」ことが大切です。例えば1年後の育成のゴールを伝える、各業務の目的・水準・手順を示すなどです。マニュアルやガイドライン等もこちらに該当します。また、先ほどの特異性信頼理論を伝えることも有効でしょう。
2)示した基準を教え込む
基準を明確にした後は「やってみて」と振ってしまいがちです。しかし、その前に新人/転職組等の初学者に対しては「教え込む」ことが必要です。徹底したティーチングのフェーズが必要ということです。初学者の習得レベルによって教え込むレベルの調整も必要となります。
3)徹底させる
そして最後に「やってみてもらう」のですが、ここで重要なのは「徹底」です。1)で明確にした水準に達していなくとも「本人も頑張っているのだし・・」とえてして甘くなりがちです。しかし、指導者は具体性をもって耳の痛いことを本人に伝え続けることが重要です。1回言って終わり、ではないのです。辛抱強く関わり続けることが重要なのです。
このように育成者が関わり続けると、学習者のレベルはどんどん上がっていきます。そうすると、以前は達していなかったレベルの型もできるようになる・・・つまり守のレベルが上がり続けることとなります。Maturity Spiralの盲点と言えるかもしれませんが、このように一度に「守という型」を全部教え込むのではなく、学習者のレベルに合わせて、基準の明確化→教え込み→徹底→基準の明確化・・・とスパイラルを回す、螺旋階段をどこまでも上っていくようなイメージと捉えても良いのではないでしょうか。
なお、インパクトではMaturity Spiralの3つのステップをしっかりと回しています。今回は私の所属する営業部門での提案書作成の具体例をご紹介いたします。ちなみに当社では、提案書ではなく提案はクライアントと共に議論して創り上げていくものと捉えており、Discussion Paper(以下DP)と呼んでいます。
1)期待される基準を明確にする
クライアントに合わせたDPを作成するのですが、やはり基本の型は必要です。当社ではDP作成のガイドラインが存在します。これによってどういった内容・レベルのものが求められているか、またそれは何故なのかが明確になっております。
2)示した基準を教え込む
DP作成のガイドラインはあくまで方向性を示したものです。なぜなら、DPはクライアントの状況等によってカスタマイズされる、クリエイティブな領域が含まれているからです。つまりマニュアルのように再現性を担保することはできないため、完成した際のレベル感がまちまちとなってしまいます。だからこそ、クオリティを担保するものとしてのDesign Meeting(以下DM)を実施し、作成したDPは基準に達しているのかを個別に確認します。作成者のレベルによってはほぼ全修正のようなこともあり、徹底したティーチングを受けます。
3)徹底させる
DMを通じて個人がDPを修正することは勿論、その学びを定着・チームでの学習とするために、定期的に自身の作成したDPとDMで学んだことのシェアの場を設けています。
繰り返しとなりますが、これらは終わりがなくスパイラルを回すようにずっと続けていくものです。これを育成する側・される側、双方がしっかりと認識する必要があるのです。
このスパイラルを回すことによって自然と仕事のレベル・当たり前の基準もどんどん上がっていきます。これは一個人としてはもちろん、組織としての能力の底上げにも繋がります。そのため、型である守を効率的に教えるための概念であるMaturity Spiralは、新人・転職組だけではなく、変化の激しい=キャリアの上で初学者になる機会が複数ある今日に置いて、広く役に立つ考え方ではないでしょうか。
(Written by Snowpea, Client Partner, Business Consulting Department)
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