2022.1.18
創業30~40年以上経っている企業において、ノウハウや技術の伝承で全く悩んでいないというところはないのではないでしょうか?
企業にとっての生命線であるノウハウや技術の伝承は、シニアのキャリアを生かす場でもあります。
これまで長い年月を積み重ねてきた経験値をムダにせず、可視化した状態で企業の財産として残すことが伝承の一歩となります。第一線を退いたシニアであっても自分のスキルを伝えることで活き活きと働くことが出来ます。企業にとってもシニアのキャリアを生かす利点は大いにあると考えられます。
■インパクトにおける技術伝承と、シニア人材としての私と
1980年に創業し、1990年に日本での活動を始めたインパクト。第一世代が第一線から引いていく中で、様々なノウハウや技術の伝承が課題となっています。
特に緊急度が高いものとして、「プロジェクト」の開発が挙げられます。プロジェクトとは、種々の仕事上のメタファーを含む、チーム単位で取り組む課題解決活動です。誰も見たことも聞いたこともない課題は、参加者の思考・行動傾向を浮き彫りにします。これらのプロジェクトは、インパクトの生命線をなすといっても過言ではありません。
そのプロジェクトの開発は、今日まで特定のスタッフによるデザインやアイデアの具現化によって行われてきました。つまり、経験値や勘どころ等の暗黙知の積み重ねと、職人的技の共有で生まれてきたものだったのです。
私自身が、シニアに一歩踏み出した今、プロジェクトの開発者として次世代へ引き継ぐべく、プロジェクト開発のガイドラインを作成中です。作成を通じ、暗黙知を伝承するということはどういうことか、徐々にわかってきたような気がします。
■技術伝承における、暗黙知の形式知化
プロジェクト開発の技術伝承において重要なポイントがあります。経験からくる「勘どころ」をどのようにガイドラインとして可視化していけばよいのかという、暗黙知の形式知化です。
この点、一橋大学名誉教授で経営学者の野中郁次郎氏によるSECIモデルを参考にしています。SECIモデルとは、個人の暗黙知を組織で共有できる形式知化し、さらに価値を生み出していく、ナレッジマネジメントのフレームワークです。このモデルによれば、暗黙知の形式知化においては、共同化、表出化、結合化、内面化の4つのフェーズがあるとしています。
インパクトでは暗黙知を暗黙知へつなげる共同化が中心に行われてきました。文章や構造図を元にしたプロジェクト開発のマニュアル作りはおこなわれていません。そこで「誰でもがプロジェクト開発のアイデアを出し、具現化につなげる」ことのできるガイドライン作りに着手したのです。
しかし、壁にぶつかりました。これまで自分の経験と勘どころで手を動かしてきたもの。それを誰でも理解できるように文章化することが出来ないのです。SECIモデルで言う表出化に当たるのでしょう。このフェーズで、浮かんだイメージを言葉や設計図に置き換えることが苦手であることに気づかされ、しばらく行きづまってしまったのです。
それでもかじりつくように進めていたところ、結合化のフェーズで一筋の希望の光を見るに至りました。屋外用のプロジェクトのコンセプトを変えることなく、制約条件の多い屋内用に転換する過程において、様々なアイデアや思考の結合化によって実現可能なプロジェクトが生まれたのです。プロジェクトの持つコンセプトや意義、参加者へ与える心理状態をしっかり洗い出し、開発メンバー間で対話と共有をすることで生まれた一歩でした。
ここでのポイントは、プロジェクトの体験という「具体」を通じて、職場環境への置き換える「抽象」への移行が出来るようするためには、プロジェクトの構成要素を分解してロジカルに並べていくことでした。ひとつひとつの要素にラベリングをして並べることで、開発メンバー間において共有ができ、「抽象」から「具体」へ戻すことで実際のプロジェクトが完成したのです。このように、「具体」から「抽象へ」、そして「抽象」から「具体」への繰り返しと、それらをロジカルに整理していくことが、暗黙知の形式知化につながって行くようです。
■伝承を通じたシニアの「やりがい」
実はこのプロセスが伝承をしていく際の面白さと言っていいでしょう。与えられた仕事を一人でやりきることで達成感を得るのも一つのやり方です。一方、皆でワイワイ頭を突き合わせて発散と収束を繰り返して解決策を見出す、長年凝り固まった固定観念を少し横において、若手を交えて新しいもの、新しいことを築いていくためのアイデアを形にしていく。この一連の流れこそが、「やりがい」を感じる瞬間なのです。
また、シニアが仕事を楽しんでいる姿勢が、仕事の取り組み方を考える若手へのメッセージにもつながって行くと考えています。
■見えてきた伝承のポイント
SECIモデルは暗黙知の形式知を進めるフレームワークであり、ロードマップのようなものです。しかし、その進め方は実践者にゆだねられているといってもいいでしょう。いろいろな進め方があるのだと思いますが、ひとりの実践者として見えてきたこととしては、
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暗黙知の実行プロセスの要素分解という具体化
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出てきた要素のロジックに基づく整理
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整理されたプロセスへのラベリングによる抽象化
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抽象化されたプロセスにのっとった具体化による検証
といったあたりがポイントのようです。
まだ私もSECIモデル実践の途上です。プロジェクト開発のガイドライン作りの完遂と、それを用いた内面化フェーズが待ち受けています。またこの先躓いたり乗り越えたりすること思いますが、そのご報告はまたいずれ。お楽しみに!
(Written by Kiyoshi, Coordinator / Producer)
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