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【Column】ちょっと待った!リスキリングの前にするべき、たったひとつのこと~思考の癖からの脱却~

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Published: May 24, 2023
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2023.05.24

リンダ・グラットン著のベストセラー『ライフシフト100年時代の人生戦略』(2016年出版)がきっかけで広まったとされる言葉『人生100年』。これを聞いてワクワクする人もいれば、漠然とした不安を感じる人もいるのではないでしょうか。

突如襲ってきたコロナ渦、加速するDX戦略、一向に出口の見えない長期不況にスタグフレーション。前代未聞の変化の時代に「あなたの寿命は20年延びました」と言われても素直に喜べない人の多さは、市場調査の結果にも表れています。ライフシフトジャパン社のアンケート調査によれば「人生100年時代」にワクワクする人は38.8%、どんよりする人は61.2%なのだそう(1)。



それでも人が前向きに働いていくための施策のひとつとして、現在日本が国をあげて整備とバックアップ体制を整えているのが「リスキリング」です。しかし、企業が目指すリスキリング、なかなか思い通りにはいかない現状がありそうです。実際、リスキリングで新たなスキルやツールを獲得し実務で活かせている、新しいエリアでの知識を習得し社内異動を成功させた、そんな人はまだまだ少数派にとどまっているのではないでしょうか。 

リスキリングがうまく行かない要因として、内発的な動機がない社員にも強制的にリスキリングのプログラムを受講させる、つまり外的動機によってリスキリングを試みる企業の在り方にあると指摘する声もあります(2)。

実はこのやり方は、日本の従来の教育システムと似たものです。定められたカリキュラムを受動的に学ぶ手法は、私を含めた中高年層にも馴染みがあるのではないでしょうか。スキルのインプットを積み上げていくリスキリングは、詰め込み式での学習に慣れている日本人には受け入れやすい概念かもしれません。ただしその結果、なぜそれを行う必要があるのかという内発的な動機がないため、成果につながりにくいという主張には一理ありそうです。

リスキリングでインプットを試みる前に、そもそも「アンラーニング」が必要不可欠であると主張するのは東京大学の柳川教授です(3)。茂った樹木の剪定をするようなイメージで、日当たりや風通しを良くするために余計な枝葉を定期的に切り落とさないと、その樹木の成長は鈍化してしまうのと同様であると指摘します。
 

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ここで言う余計な枝葉とは、いわば思考の癖。それは過去の体験に基づいて時間をかけて構築される無意識の思考パターンです。とはいえ、それら全てを捨て去ることを推奨しているのではなく、過去に学んだことや経験したことを一度解き放ち、そこから新たに発展させていく技術(スキル)を「アンラーン」と定義しています(4)。 


■思考の癖から脱却するステップ 


自分を作り上げている思考の癖から解放され成長のステップを踏むためには、その癖から「意識的に」脱却することが重要です。そのためのファーストステップは、まず自分の思考の固定化に気づくこと。意思決定や行動の背景に「いつもは」「これまでも」「通常は」といった無意識に固定化された思考がないか自問し、その中で何をアンラーンしたいのか・すべきなのかを見極めることです。

それがわかると、今の環境に合致する新しいやり方について再考する余裕が生まれます。再考の結果、やはり古いやり方が最も適しているならそこに戻れば良い。繰り返しになりますが、無意識の固定化から脱却するということがポイントなのです。

それでは、最初のステップである「自分の思考の固定化」に気づくためにはどうすれば良いのでしょうか。 

例えば、自分史を年表にし、自分のそれまでの人生の浮き沈みや自己に影響を与えたと考えるイベントを書き込むというChuff Chartなどを使う方法があります。モチベーションマップや自分史グラフなどは、作成することで客観的に自己の物事の捉え方を可視化できる良いツールです。しかし、これらは描いて終わりにするだけでは少しもったいない。インパクトでは、そのワークにプラスして他の人からのフィードバックや、質問をする時間を組み込んでいます。 

他人からの質の良い問い、例えば「あなたがその出来事から得た学びは?」などに答えていくプロセスは内省を促し、結果的に自分にとっては当たり前になっていた思考パターンを再認識することに役立つのです。この手法は、特に中高年層向けのキャリアをテーマにした研修などで役に立ちます。 

まず、自分の思考の固定化を認識する。それではじめて、次のステップである自己変革の促進や職場に戻った後の具体的な自分の行動の工夫について、能動的に考えることができるようになるのです。 
 

私自身もよくオンライン勉強会などに参加しますが、終了時は「今日得た学び」についてまとめるのが一般的です。しかし、その前に問うべきは「今日何を手放せたか(アンラーンできたか)」なのではないかと考えるようになりました。リスキリングもそうですが、私たちはついつい新しい知識やスキルを今持っているものの上に積み上げたくなります。ただ、学びの加速のためにはその事前段階としてのアンラーンこそ大切なのだということを、私は本コラムを執筆しながら改めて気づかせてもらいました。 

その結果、日々「この意思決定は、私に染み付いた思い込みから来ているのだろうか」と自問しながら仕事をするようになっています。「いつもそうだから」「前回もこれで行けたから」という答えが出るなら要注意、その考えが今回も最適解なのか思案するステップを踏んでいます。

その結果、私の意思決定のスピードは少し遅くなったかもしれません。でも焦らず行こうと思います。

何と言っても人生100年、20年のボーナスが加算されたのですから。 


原注: 
(1) ライフシフト・ジャパン株式会社(2022.12.7)「ワクワク?どんより?人生100年時代マインド調査」(最終閲覧日:2023年3月5日)
(2) Forbes(2022.12.23)「“やらされる”リスキリングでは意味がない」(最終閲覧日:2023年3月10日)
(3) 柳川範之&為末大(2022)「Unlearn」、P4、日経BP社 
(4) 柳川範之&為末大(2022)「Unlearn」、P57、日経BP社 

参考文献: 
Barry O’Reilly (2022)「アンラーン戦略」、ダイヤモンド社 


(Written by Mayu、Sustainable Business Enabler)
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