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【Column】品川事変に学ぶ 強いメッセージを出す際のポイント

【Column】品川事変に学ぶ 強いメッセージを出す際のポイント
Published: November 24, 2021
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2021.11.24

「今日の仕事は、楽しみですか。」
10月4日、品川駅構内の通路をはさむ列柱のサイネージに、そんな広告がずらりと並んで掲出されました。
そして、瞬く間に炎上し、翌日に取り下げられました。

「精神削られる」「仕事が原因でつらい思いをしている」といった感情。
「『楽しくない仕事』をしている、せざるを得ない人たちが見えてない」のような意見。
様々な言葉が炎となって一斉にネット上を駆け巡りました。

中には、あえて炎上することで注目を集める「炎上商法」だったのでは?などという推測も見られました。
しかし、仮にそうだったとしても、広告主の会社は、他者を見下すことや、踏みにじることまでを意図してはいなかったのではないでしょうか。
ならば、なぜあれほどまでに受け手は反応したのでしょう?この炎上事変からどんなことが学べるのでしょう?

同志社大学教授の池田謙一氏によるコミュニケーションの基本モデルを参考にしながら考えてみたいと思います。

communication_model

このモデル図にある通り、情報の送り手は表象としての情報(表象=情報)を、メッセージとして記号化します。(今回の場合だと「今日の仕事は、楽しみですか。」)
一方の情報の受け手は、既知の知識と推論能力(コミュニケーションの前提)を用いてメッセージを情報化し、心理的な表象として取得することで、コミュニケーションを成立させます。
このように、メッセージの意味は「コミュニケーションの前提」から切り離しえません
問題は、送り手と受け手の間で、この前提の共有が不完全であることにあります。

あの広告についても、「今日の仕事は、楽しみですか。」という大きく強いメッセージを出すにあたって、送り手と受け手の間で、仕事に関する前提が共有されていなかったといえます。
そのことが、炎上という反応につながった原因のひとつであるといえるでしょう。

今まで、わかりやすい、炎上した広告を例にとってみてきましたが、なにもコミュニケーションにおける前提共有の不完全性は、この件に限ったことではありません。
組織内でも同じであることが、この事変から学んでとれます。

新しい事業方針、組織や制度の改革など、大きく強いメッセージを打ち出す際のことを思い浮かべてみてください。
現状認識や、なぜ今かなどの前提が共有されていなければ、どうなるでしょう?

その反響が狙いとは大きく違ったものになるだろうことは、想像に難くありません。
この点については、2つのポイントがあります。

1つ目は、前提共有は不完全なものであることを認識すること。
共有されていそうな親しい間柄の同僚のAさん、Bさんの間でも、案件Xについての認識が違っていた、なんてことはざらなものです。
このように、不完全なものとして織り込んで行動することが出発点となるでしょう。

そのうえで2つ目のポイントです。
前提共有の不完全性は解消できないものだとしても、少しでも溝を埋める努力が必要になってきます。

この溝を埋める上でのコツが、共通言語化、共有体験化、内面化のステップを踏むことです。
共通言語化は、打ちだすメッセージをシンプルかつわかりやすくすることです。このステップでのカギは、ワーディング作業に加えて、できたものについてマネジメント内で十分に合意形成することです。推し進める側が一枚岩でないと、溝を埋めるどころか、溝が増えるだけだからです。

共有体験化は、わかりやすくしたメッセージを、同じ体験をすることを通じて、感情を交えながら意味・感覚レベルですり合わせることです。ここでのカギは、体験のあとに対話を重ねることです。体験を通じて、メッセージが自分にとって、チームにとってどういう意味をもちうるのか、言語化し合うことが大事です。

内面化は、ここまで踏んできたステップを、日常に落とし込むことです。何か親しみの持てるグッズを作って常に目につくようにしたり、分かち合った体験の時の写真をバーチャル背景にしたり、色々な工夫がありえるでしょう。

これらのステップを着実に踏み、うまく活用されたのが、ヘンケル・ビューティーケア・ジャパン様です。
組織を率いる後藤様にお話を伺いました(ケースはこちら)ところ、色々と気づき学びの多いものとなりました。

組織の成長を目指し、節目ごとの力強いメッセージで前向きな推進力を生み出す。
そのためにも、前提共有の不完全さを意識して、綿密に過程をデザインすることが大事なのではないでしょうか。

(Written by Pin, Creator)
>>>この筆者と話してみる

参考文献:
池田謙一『コミュニケーション (社会科学の理論とモデル)』(東京大学出版会、2000年)


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